デザイナーとして
確立するまでの
歩んできた道のり
世の中には様々な種類のデザイナーがいます。ファッションデザイナーや家具デザイナーなどなど・・・。デザイナーの中でも特殊な「ダイヤモンドのデザイン」というものはとても珍しいデザインです。
この世界のスタンダードなダイヤモンドはラウンドブリリアントカット、誰もが思い浮かべるダイヤモンドのデザインが浸透していますが、そのデザインは100余年変わっていません。車であっても家電であっても、その機能と共にデザインも変化しています。なぜダイヤモンドにはデザインされた新しいものが少ないのか。
「ダイヤモンドにもデザインを」という考えをベースに、これまでのデザイナーの歩みを振り返ります。

ダイヤモンドの世界へ
オリエンタルダイヤモンド入社

私がこの世界に足を踏み入れたのは、「オリエンタルダイヤモンド工業(現、株式会社オリエンタルダイヤモンド)」という業界大手の「デビアス社」と商事会社大手の「住友商事」とが共同出資で設立した、日本で最初のサイトホルダー(ダイヤの原石を採掘会社から購入する権利)を持った会社でした。
ダイヤモンドのデザインから加工までを一手に扱う「大船工場」の検査室に配属となり、未知の世界にわくわくした経験を覚えています。
ダイヤモンド研磨のノウハウのない現場

ダイヤモンドを輝かせる工程はまず原石を切断し、丸の形に削り出し、カットして行く・・・というものですが、当時の日本にはカットの技術はほとんどなく、ベルギー(当時のダイヤカット技術の最高峰)より指導の技術者を招いていました。
「技術は感覚で覚えるもの」というのが当時の技術者の教えでしたが、感覚のみを頼りにした仕事内容は覚えるにも時間がかかり、なにより安定して同じものが作れないというジレンマを抱えていました。
研磨のクオリティアップの試行錯誤

技術を感覚だけでなく数値で補う、という日本の管理方法を取り入れてみたらどうだどうかと疑問を持ち、そこから数字との戦いが始まりました。
文化系の私には数学が疎く、立体の三角関数やダイヤの持つ屈折率の計算など勉強の毎日だったことを覚えています。計算をするにも当時は電卓は非常に高価な存在だったため、関数表や現在は見かけなくなった計算尺を使い、全てを紙の上での計算していました。
次第に数値を基準とした管理方法が中心になっていき、オリエンタルダイヤモンドでカットされたダイヤモンドは世界最高の輝きだと言われるほどになりました。
現在のダイヤモンドのスタンダードを考案

デザイン依頼で「アポロンエイト」というカットを考案しました。これは世界で初の「H&C(ハートアンドキューピッド(ラウンドブリリアントカットの最高ランクである指標の1つ)」であり、カットの精巧さを世界に知らしめるものになりました。
H&Cでの経験が、今後のデザインに大きな影響と自信をもたらすことになります。
その後、194面体デザインなど合計8種類のオリジナルデザインを考案し、最高の輝きをもったデザインであると自負できるような、新しいデザインの考案ができました。
また、ラウンドブリリアントカットの進化系、さらにプロポーションにこだわった「ダイヤモンド雪華」を考案しました。雪華はスタンダードなラウンドブリリアントカットのデザインは変えず、各面の角度などを厳密に加工することで、更なる輝きを見せてくれるダイヤモンドです。
ダイヤモンドの底知れぬ力を再認識

この頃の思い出の一つにこんな話があります。阪神淡路大震災の大火事で焼けて真っ黒になってしまったダイヤモンドと出会ったことです。
表面がザラついていて角砂糖のような見た目をしていました。「これがダイヤモンドなのか?!」とビックリしましたが、輝くようにカットしなおしてくれとのオファーを受けたのです。
焼け爛れてしまった表面を丁寧にカットしていくと、中から現れたものは元の姿に戻ったダイヤモンドでした。ダイヤの強靭さにただただ関心してしました。
独立~株式会社タスコ設立
独立までに学んだ知識と経験

1997 年にオリエンタルダイヤモンド工業を退社しました。オリエンタルではこれからを大きく左右するような大事な経験をたくさんしました。1から考えたカットデザインや、今までにオファーされたデザインなど色々なデザインの注文がありました。とある会社のオーナー所有の100カラットダイヤの依頼や、数億はするであろうカラーダイヤのカット、他社から新しいデザインのカット依頼など様々ですが、その都度1からデザインを考えることはとても勉強になり、今の私の礎となっています。
デザイナーとして株式会社タスコ設立

1997 年独立し、株式会社タスコを設立。他社からのオファーによるデザイン作成・研磨や、今まで出来なかった新しいデザインの実験的カットなどをしています。
タスコで受けたオファーにも様々なおもしろいデザイン依頼がありました。「神様を表現したダイヤモンド」や「黄金比でデザインされたダイヤモンド」、「1000面を超す面を持ったダイヤモンド」、「ケータイのバックライトで模様を出すダイヤモンド」「88という数字にこだわったデザインのダイヤモンド」など・・・
オファーをいただいたのは宝飾業者さんだけではありませんでした。色々な業種の方々のオファーを受け、次なるデザインのヒントになっています。
研磨のクオリティアップの試行錯誤

変化に富んだオファーを受けていると、ダイヤモンドをカットする道具たちが既存の形では対応できなくなったため、考え工夫し、色々な要望に答えられる形へ進化させています。最初のころはすぐに対応できないことも稀にありましたが、経験とアイデアを皆で出し合いながらデザイナーとしての実力をつけていきました。
ダイヤモンドの工房というのは世界でも数が少ないため、多種多様なオファーを成功させるため、デザインから道具まで日夜研究しています。
他社からの注文だけではなく、私が考えたダイヤモンドを直接みなさんに見てもらいたい、お客様とダイヤモンドの話をして、ニーズに答えられるようなデザインを考えカットしていきたい・・・そんな思いから「創作ダイヤモンドこころ」という自社ブランドを立ち上げました。
ダイヤモンドはカットによってこんなにも表情が変化するんだ、そんな声が聞きたくて日々がんばり続けていきます。